日銀が利上げしても円安が進む局面が続いています。海外株式に投資している人から「為替ヘッジありの商品に切り替えたほうがよいのか」という疑問が出やすい場面です。
まず前提の確認から。eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、いわゆるオルカンは為替ヘッジを行いません。交付目論見書に「原則として、為替ヘッジは行いません」と明記されています。ヘッジあり・なしを選べる商品ではありません。
この記事では、ヘッジなしであることが実際にどう効くのか、ヘッジあり商品に乗り換える判断をどう考えるかを整理します。
オルカンの基本情報
| ベンチマーク | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース) |
|---|---|
| 為替ヘッジ | 原則として行わない |
| 信託報酬 | 年率0.05775%以内(税込) |
ベンチマークが「円換算ベース」である点が重要です。指数自体は現地通貨建ての株価で計算され、それを円に換算した値が基準価額に反映されます。つまり基準価額の動きには、株価の変動と為替の変動が両方入っています。
ヘッジなしが有利に働く場面、不利に働く場面
単純化すると次のようになります。
- 円安が進む:外貨建て資産の円換算額が増えるため、基準価額にはプラス
- 円高が進む:円換算額が減るため、基準価額にはマイナス
直近のように円安基調が続いた局面では、ヘッジなしは追い風でした。株価がそれほど上がっていなくても、円換算の評価額は増えます。
逆に言えば、これまでの運用成績のうち、どれだけが株価の上昇でどれだけが円安によるものかを分けて見ておかないと、実力を過大評価することになります。今後円高に振れれば、その分は逆回転します。
ヘッジありのコストは金利差で決まる
「では円高が怖いからヘッジありにすればよいのでは」と考えるところですが、ヘッジにはコストがかかります。しかもこのコストは今、高い水準にあります。
為替ヘッジのコストは、原則として2つの通貨の短期金利の差で決まります。円のほうが金利が低ければ、その差額がコストとして発生します。
現在の政策金利で見ると次のとおりです。
| 米国(FRB) | 3.75〜4.00%(2026年9月16日決定) |
|---|---|
| 日本(日銀) | 1.25%程度(2026年9月18日決定) |
| 差 | 約2.5〜2.75ポイント |
実際のヘッジコストは短期金融市場の金利で決まるため政策金利そのものではありませんが、おおむねこの水準が目安になります。年2.5%前後のコストを払って、為替の変動を打ち消すということです。
信託報酬が年0.05775%の商品に対して、ヘッジコストが年2.5%前後。桁が2つ違います。「コストが低いからオルカン」と選んだ人が、ヘッジありに移すとコスト構造がまったく変わる点は押さえておく必要があります。
なお日銀の利上げが進み、日米の金利差が縮まれば、ヘッジコストも下がります。金利差が逆転すれば、ヘッジによって金利差を受け取る「為替ヘッジプレミアム」になることもあります。今は差が大きいためコストが高い、という状態です。
判断の軸は「いつ使うお金か」
為替の先行きは予想できません。予想できないものを軸にすると判断できないので、自分が答えを持っているもので考えます。
その資金をいつ使う予定かが最も確実な軸です。
- 20年、30年先の資金(老後資金など):為替は長期では一方向に動き続けるものではありません。積立を続けていれば購入時の為替も平均化されます。この期間で年2.5%前後のコストを払い続ける合理性は乏しいと考えられます。
- 5年以内に使う予定がある資金:取り崩すタイミングの為替が結果を左右します。ただしこの期間の資金は、そもそも株式で持つべきかという問題が先にあります。為替ヘッジの前に、預金や個人向け国債など元本が減らない置き場所を検討するほうが筋が通ります。
- 使う時期が決まっていない資金:ヘッジなしのまま、為替による変動も含めて受け入れる範囲かを確認します。円高が進んだときに積立をやめてしまう可能性があるなら、金額そのものを見直すほうが現実的です。
つまり多くの場合、為替ヘッジの有無より「その資金を株式で持つべきか」のほうが先に来る問いになります。
やってはいけない判断
円安が進んだ局面でヘッジありに切り替えるのは、円高に振れたあとで慌てて戻すことになりがちです。為替の水準を見て乗り換えるのは、結果的に高値づかみと安値売りを繰り返すのと同じ構造になります。
また、乗り換えには売却時の課税という問題もあります。NISA口座内であれば非課税ですが、課税口座で含み益がある場合、売却した時点で税金が発生します。ヘッジコスト以前に、乗り換えそのものにコストがかかる点は見落とされやすいところです。
金利や為替のニュースを見て積立設定を変更するのは、多くの場合やらないほうがよい操作です。変更するとしたら、為替の水準ではなく自分のライフプランが変わったときです。
まとめ
オルカンは為替ヘッジを行わない商品で、基準価額には株価と為替の両方の変動が含まれます。ヘッジありに切り替える場合、コストは日米の短期金利差でおおむね決まり、現在は年2.5%前後の水準です。信託報酬年0.05775%と比べると桁違いの負担になります。
為替の先行きは予想できません。判断の軸は「その資金をいつ使うか」に置くほうが確実です。長期の資金であれば、ヘッジコストを払い続ける合理性は乏しいと考えられます。
※本記事は特定の商品の購入を推奨するものではありません。信託報酬や運用方針は変更される場合があるため、最新の情報は交付目論見書でご確認ください。


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