繰下げ受給の84%増は働きながらだと満額にならない|在職老齢年金で止まった分は増額に入らない

繰下げ受給の84%増は働きながらだと満額にならない|在職老齢年金で止まった分は増額に入らない 家計・節約

年金の繰下げ受給は、1か月遅らせるごとに0.7%、75歳まで待てば84%増えます。この「84%」だけを見て決めてしまいそうになりますが、65歳以降も厚生年金に加入して働き続けるなら、増えるのは式どおりの金額になりません。在職老齢年金で止められた分が、繰下げの増額計算から外れるからです。

繰下げても増えない部分がある

0.7%
1か月繰り下げるごとの増額率
84%
75歳まで繰り下げた場合の最大増額率
対象外
在職老齢年金で止められた額の扱い

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」(2026年8月12日更新)

日本年金機構は、繰下げ加算額の計算について次のように書いています。

ただし、65歳以後に厚生年金保険に加入していた期間がある場合や、70歳以後に厚生年金保険の適用事業所に勤務していた期間がある場合に、在職老齢年金制度により支給停止される額は増額の対象になりません。

繰下げ加算額は、老齢基礎年金の額(振替加算額を除く)と老齢厚生年金の額(加給年金額を除く)に増額率をかけて計算します。働きながら待っていた期間に止められた分は、その計算から差し引かれます。完全に退職してから待つ人には関係のない話ですが、65歳以降も会社員として働き続ける予定なら、増額率の数字をそのまま当てにはできません。

止まった分を除くための「平均支給率」

計算のしかた
繰下げ加算額 = 年金額 × 増額率 × 平均支給率
平均支給率 = 月単位での支給率の合計 ÷ 繰下げ待機期間
月単位での支給率 = 1 -(在職支給停止額 ÷ 65歳時の老齢厚生年金額)

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」

止められた月があると、その月の支給率が1より小さくなります。待機期間を通じて平均した率が繰下げ加算額にかかるので、止まっていた期間が長いほど増え方が小さくなります。

どれくらい目減りするのか、数字を置いてみる

仮の数字で見てみます。65歳時点の老齢厚生年金が月12万円(年144万円)、賃金(標準報酬月額と直近1年の標準賞与額の12分の1の合計)が月56万円の人。合計は68万円で、2026年度(令和8年度)の基準額65万円を3万円超えます。超えた分の半分、月1.5万円が止まります。

71歳まで繰り下げた場合 在職の停止なし この例(支給率0.875)
増額率 50.4% 50.4%(率は同じ)
繰下げ加算額(年) 約72.6万円 約63.5万円
受け取る老齢厚生年金(年) 約216.6万円 約207.5万円

増額率は日本年金機構「繰下げ増額率早見表」(71歳=50.4%)による。金額は上記の仮定での試算。

この例で起きていること:増額率そのものは変わりません。減るのは増額の土台になる部分で、この例では年9万円ほどの差です。なお老齢基礎年金は在職老齢年金で止まらないので、そちらの増額は目減りしません。

基準額は令和8年度65万円、毎年度変わる

在職老齢年金の基準額は、令和7年年金制度改正法にもとづいて2026年(令和8年)4月から、月51万円が65万円へ引き上げられました。日本年金機構の注記によれば、この額は「令和8年度の基準額で、毎年度、賃金の変動に応じて改定されます」とされています。物価ではなく賃金に連動するところが、年金額の改定ルールと違います。

なお在職老齢年金の判定に使う基本月額は、加給年金額を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額で、老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されます。繰下げの側で増額の対象外になるのは加給年金額と振替加算で、経過的加算額は老齢厚生年金の額に含まれるため増額されます。どちらの制度でも「別建て」になるものが違うので、ひとまとめに覚えないほうが安全です。

在職老齢年金で止まるか 繰下げで増えるか
老齢厚生年金(報酬比例部分) 止まる 増える
経過的加算額 止まらない 増える
老齢基礎年金 止まらない 増える
加給年金額 判定に入らない 増えない
振替加算 判定に入らない 増えない

出典:日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」「年金の繰下げ受給」をもとに作成

混同しやすい「令和5年4月の改正」は、これとは別の話

在職で止まった分が増額の対象外になることを「令和5年4月の制度改正でそうなった」と説明している記事がありますが、これは別の制度と取り違えています。

令和5年4月に施行されたのは特例的な繰下げみなし増額制度で、70歳到達後に繰下げの申出をせず、65歳からの本来の年金をさかのぼって請求することを選んだ場合に、請求の5年前の日に繰下げの申出があったものとみなして増額する、という仕組みです。昭和27年4月2日以後生まれの人などが対象で、80歳以後に請求する場合などは適用されません。

これに対して、在職で止まった分が増額の対象から外れるのは、繰下げ加算額の計算ルールそのものです。日本年金機構の「年金の繰下げ受給」にずっと書かれていて、改正で新しく加わった扱いではありません。調べていて「令和5年4月から」と出てきたら、どちらの話なのかを確かめてみてください。

繰下げるかどうかを、自分で決めるために

繰下げを選ぶ前に、自分で答えが出せること
□ 65歳以降も厚生年金に加入する働き方を続ける予定か
□ 賃金(月収+直近1年の賞与の12分の1)と老齢厚生年金の月額を足すと、65万円に届きそうか
□ 繰下げの請求を在職中にするか、退職してからにするか
□ 勤務時間や賃金を来年以降に変える予定があるか
□ 老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰り下げる選択肢を検討したか

どれも相場や将来の制度ではなく、自分の働き方の予定を見れば答えが出ます。基準額に届きそうにない働き方なら、この目減りは起きません。

退職すれば、その先は止まらなくなる

退職して厚生年金の被保険者でなくなれば、在職による支給停止そのものがなくなります。同じ「75歳まで繰り下げる」でも、ずっと働きながら待つ場合と、途中で退職してから待つ場合とでは、実際に増える金額が変わります。繰下げを考えるときは、増額率の数字だけでなく、いつまで厚生年金に加入して働くかをあわせて並べてみてください。

まとめ
  1. 繰下げで増えるのは、在職老齢年金で止められなかった部分だけ。増額率そのものは変わらず、土台が小さくなる
  2. 計算は繰下げ加算額に平均支給率をかける形で行います。止まっていた月が多いほど平均支給率が下がります
  3. これは従来からの計算ルールで、令和5年4月の改正(特例的な繰下げみなし増額制度)とは別の話

制度の内容は変わることがあります。実際の金額は、ねんきんネットや年金事務所で個別にご確認ください。

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